「初段は当たらなくても受かるよ」と聞くことがあります。でも、それなら何ができていれば合格なのか。そこははっきり書かれていないことが多いですよね。
わたしは大人になってから弓道を始めて、まだ弓道の段位は持っていません。わたし自身はまだまだの身です。この記事では、全弓連が公開している審査の基準と資料を読み比べてわかったことを整理してみました。自分の射がどうかは、最後は先生に見てもらうのが確実だと思います。
結論から書くと、初段の基準は「射型と体配が型に適っていて、矢所が乱れないこと」で、的中は基準に入っていません。2本の矢を射る行射と学科の総合で合否が決まり、「無指定」で受けた場合は、結果しだいで初段か級になります。
この記事は、全日本弓道連盟(以下、全弓連)の審査規程と審査統一基準、審査での行射の要領をもとに整理しました。
- 弓道の初段の合格基準と、合否の決まり方
- 初段の審査で見られるポイント(体配・射型のチェック表)
- 5人立ちの「間合い」|いつ立って、いつ引くか
- 初段・弐段・参段で基準がどう変わるか
- 初段の審査で落ちやすいところ
弓道の初段とは|合格基準は「射型・体配」と「矢所」
全弓連の審査規程は、段ごとに「どんな人に与えるか」を一文で決めています。初段はこうです。
射型・体配型に適って、矢所の乱れぬ程度に達した者
短い文ですが、言葉を分けると見られるものは3つです。これがもう今回の結論ですね。
- 射型:矢を射るときの形。足踏みから残心までの射法八節の運び
- 体配:射場に入ってから出るまでの、立つ・座る・歩く・礼をするといった動作
- 矢所:矢が飛んでいった先。2本の矢が大きくばらばらにならないこと
「矢所の乱れぬ」は、的に中ることとは別の話です。的を外していても、2本が同じようなところに飛んでいれば「乱れていない」と読めます。
正直、調べる前は「当たれば受かる、当たらなければ落ちる」くらいに思っていました。基準のどこにも的中が出てこないのは意外でした。
合否は「行射の票」と「学科」の総合で決まる
初段の審査は、実際に矢を射る「行射」と、記述で答える「学科」の総合で合否が決まります。四段以下では、行射で審査員の票の5割以上、学科で60点以上が合格の条件です。
令和8年度の初段の学科は、射法八節についての問題が2問と、弓道を始めた動機や学んで得たことなどを書く問題が1問。答案の書き方は弓道審査の筆記(学科)の書き方にまとめています。
「無指定」で受けると、初段か級かが決まる
段位も級位もない人が最初に受けるのは、多くの場合「無指定」の審査です。無指定では、行射と学科の総合成績によって初段か級位が与えられます。ただし初段になるには学科の合格が必要です。
では、一回で初段になる人と、級になる人は何が違うのか。基準の言葉を並べると見えてきます。一級の基準は「射型・体配概ね正しいものと認められる者」。初段は「型に適って、矢所の乱れぬ程度」です。おおむね正しい段階から、型どおりにできて矢所も安定している段階へ、という差だと読めます。
級・段・称号の全体像は弓道の段位一覧で整理しています。
初段の審査で見られるポイント|チェック表
規程の一文だけでは、具体的に何を見られるのかはまだ分かりにくいところです。そこで全弓連は「審査統一基準(五段以下)」という表を出していて、審査はこの表の項目を観点に総合的に評価する、としています。
初段の行に書かれている項目を、読みやすく言い換えて並べるとこうなります。
| 区分 | 見られるポイント |
|---|---|
| 体配 | 基本の型に適った姿勢と動作ができている 節度のある態度でいる |
| 射法・射技 | 射法八節が型どおりに運ばれている 引分けがスムーズ 会で努力している 離れに元気がある 残心に気力がある 弓倒しのあとも姿勢が崩れない |
| 問わないこと | 矢枕落ち(矢が弓から落ちること)は不問 |
| 注記 | 筈こぼれ(矢が弦から外れること)は、残りの1射で評価。2射ともこぼれたら否(弐段・初段共通) |
並べてみると、見られているのは「射る前後も含めて、基本どおりに一連の動作ができているか」です。一本一本の当たり外れより、入場から退場までを通した姿が見られている、と考えるとわかりやすいと思います。
体配で見られるところ
体配は、射場に入って礼をし、座り、立ち、射位に進み、射て、退場するまでの動作のことです。初段の基準は「基本の型に適った姿勢、動作」と「節度ある態度」の2つ。弐段の行では「執弓の姿勢、矢番え、足の運びなど」と例が挙がっているので、このあたりが基本の動作の中心だと考えてよさそうです。
審査を弓道着で受ける場合の注意事項は、全弓連の行射の要領にまとまっています。
- 射場への入退場では、上座に意識を向け、順に礼(揖)をする
- 本座に進んで跪坐し、5人そろって揖をしてから射位に進む
- 射位で跪坐し、脇正面に向きを変えて、弓を立て矢を番えて待つ
- 射終わったら、1番から順に退場する
一つひとつの動作の細かい手順は、教わる先生によって説明の仕方が違うこともあるので、ここでは流れだけにしておきます。入場から退場までの動作は弓道の体配とは|入場から退場までの流れと座射・立射にまとめています。
座る、歩く、弓を持つ。射る前のこうした所作こそ、先生と自分の差がいちばん出るところだと感じています。以前通っていた抜刀の教室でも、礼法と立ち居振る舞いは稽古の付け足しではなく本体でした。審査で体配が射と同じ重さで見られているのは、わたしには納得のいく話です。
射型で見られるところ
射型のほうは、射法八節(足踏み・胴造り・弓構え・打起し・引分け・会・離れ・残心)が型どおりに運ばれているかが土台です。そのうえで初段の行には、引分け・会・離れ・残心の4つに具体的な言葉が付いています。
スムーズな引分け、努力した会、元気な離れ、気力のある残心。どれも形の細かさより、途中で止まったり気が抜けたりしていないか、を見る言葉に読めます。とくに会は、引き切ってすぐ離してしまうと「努力した会」とは言いにくくなります。
もう一つ見落としやすいのが「弓倒し後の崩れのない姿勢」です。射終わったあと、弓を倒して元の姿勢に戻るところまでが見られています。八つの節それぞれの中身は射法八節とは|足踏みから残心まで8つの動作を図解で解説にまとめました。
射法八節の型や体配の考え方は、全弓連の『弓道教本 第一巻』が土台になっています。学科の答案を書くときにも使う一冊です。
筈こぼれ・矢枕落ちをしたときの扱い
審査で緊張すると起きやすいのが、矢が弦から外れる「筈こぼれ」と、矢が弓から落ちる「矢枕落ち」です。
審査統一基準では、初段の矢枕落ちは「不問」とされています。筈こぼれは、1射でこぼれたら残りの1射で評価、2射ともこぼれたら否です(初段・弐段共通)。1本こぼれても終わりではないので、落ち着いて残りの1射に集中すればいい、ということになります。
審査の「間合い」|5人立ちで、いつ立って・いつ引くか
審査の行射は、5人が一列に並ぶ「5人立ち」で、座った姿勢から立って射る坐射が原則です。一人2本(甲矢と乙矢)を射ます。
このとき、自分が立つタイミングと引くタイミングは決まっています。合図になるのは前の人の弦音(矢を放ったときの音)です。全弓連の「審査における行射の要領」を読むと、規則はシンプルでした。
3番から後ろは、2つ前の人の弦音で立ち、1つ前の人の弦音で取懸けて打起す(1番は立ったら間をおかずに射る。2番は1番の胴造りが終わるころに立ち、1番の弦音で取懸ける)
1番は射位で待ったあと、立って間をおかずに射ます。2番は1番の胴造りが終わるころに立ち、1番の弦音で取懸けて打起します。3番は1番の弦音で立って、2番の弦音で取懸ける。4番・5番も同じように一つずつずれていきます。
| 甲矢 | 立つ合図 | 取懸け・打起しの合図 |
|---|---|---|
| 1番 | —(立って間をおかず行射) | — |
| 2番 | 1番の胴造りが終わるころ | 1番の弦音 |
| 3番 | 1番の弦音 | 2番の弦音 |
| 4番 | 2番の弦音 | 3番の弦音 |
| 5番 | 3番の弦音 | 4番の弦音 |

乙矢も立つ・引くの順番は同じです。違うのは甲矢を射終わってからの待ち方で、1番〜3番は4番の弦音で、4番は5番の弦音で、弓を立て矢を番えて待ちます。5番は射終わったらすぐに番えて待ちます。そして1番は5番の弦音で立ち、間をおかずに乙矢を射ます。
前の人に合わせて、間延びさせない
行射の要領の注意事項には、「行射の前後動作が殊更に間延びしないようにする」と書かれています。自分の番でゆっくりしすぎると、後ろの4人全員の動きが遅れるわけです。
また、立ったまま射る(立射)人が混ざるときは、立射の人が坐射の人の動作に合わせる、とされています。審査の体配は、自分一人の動作でなく5人の流れとして見られている、ということですね。
間合いを体で覚えるには
表で覚えても、本番で前の人の弦音を聞きながら動くのは別の話です。
審査が近づいたら、教室や部活で5人立ちの形で練習させてもらえないか、先生に相談してみるのが近道だと思います。何番になるかは当日まで分からないことも多いので、どの番でも動けるようにしておくと安心ですね。
初段・弐段(二段)・参段で何が変わる?基準の違い
初段の次の弐段、参段では、基準の言葉が少しずつ変わります。審査規程の基準と、審査統一基準の項目からポイントを並べるとこうなります。
| 段 | 審査規程の基準 | 加わるポイント |
|---|---|---|
| 初段 | 射型・体配型に適って、矢所の乱れぬ程度に達した者 | 基本の姿勢・動作と、射法八節の型どおりの運び |
| 弐段 | 射型・体配共に整い、射術の運用に気力充実し、矢所の乱れぬ者 | 執弓の姿勢・矢番え・足の運びがほぼ確実に。三重十文字・五重十文字がおおむね適正。的中は不問 |
| 参段 | 射形定まり、体配落着き、気息整って、射術の運用法に従い、矢飛び直く、的中やや確実な者 | 呼吸に合わせた動作、目づかい、審査の要領に則った行射。手の内の働き、矢飛び |
目を引くのは的中の扱いです。弐段の項目にはわざわざ「的中不問」と書かれていて、的中が基準の言葉に入ってくるのは参段の「的中やや確実」からです。初段・弐段のうちは、まず形と動作を整える段階だと言えそうです。
初段を取ってから弐段を受けられるのは、原則として5か月がたってからです。段ごとの合格の割合や、最短で何年かかるかは弓道の段位一覧にまとめています。
初段の審査で落ちやすいところ

「◯割の人が落ちる」といった数字は、出どころがはっきりしないものが多かったのでここでは書きません。ここでは、基準の裏返しとして言えることだけを並べます。
- 体配の手順が抜ける・迷う:揖を忘れる、立つ・座るの順番で止まってしまう
- 間合いが崩れる:前の人の弦音を聞き逃す、自分の番で間延びする
- 会がない:引分けからそのまま離してしまう
- 射終わったあとに気が抜ける:残心や弓倒しのあとで姿勢が崩れる
- 筈こぼれが2射とも:基準では否になる
- 学科が60点に届かない:行射がよくても合格にならない
どれも「当たらなかった」とは別の話なのがわかりますよね。逆に言えば、当日に緊張して外しても、動作が型どおりなら挽回の余地があるということです。どこを重く見るかは審査員や指導者によって言い方が違うこともあるので、自分の射は先生に見てもらうのがいちばん確実でしょう。
遅刻や呼び出しに応じないと棄権になる、といった当日の決まりや持ち物は弓道の審査とは|申込〜合格発表までの流れと持ち物で整理しています。
弓道初段のよくある質問
Q. 初段は一本も当たらなくても受かりますか?
初段の基準に的中は入っていないので、外れても合格する可能性はあります。ただし「矢所の乱れぬ程度」は見られるので、2本が大きくばらつかないことは大事です。
Q. 初段まで何年くらいかかりますか?
審査規程に年数の決まりはありません。稽古の頻度や通っている教室によって違うので、先生が「受けてみては」と言ってくれたときが一つの目安です。
Q. 大人と高校生で、初段の審査の中身は違いますか?
基準は同じ審査規程・審査統一基準です。高校生は学校単位で申し込むなど、受け方の違いは審査の流れの記事にまとめています。
Q. 審査で何番になるかは選べますか?
立ち順は主催する連盟が決め、事前に公開される進行表や当日の受付で知らせる形が多いようです。どの番でも動けるように、間合いの順番は全部の番で覚えておくと安心です。
Q. 初段の学科は何が出ますか?
令和8年度は、射法八節を順番に書く問題と八節から1つを選んで説明する問題(各25点)、弓道を始めた動機・学んで得たこと・学びたいことから指定された1問(50点)です。問題は全弓連が年度ごとに公表しています。書き方は筆記の書き方の記事へ。
まとめ
弓道の初段の基準は「射型・体配型に適って、矢所の乱れぬ程度」。的中は基準に入っておらず、見られるのは入場から退場までを通した基本の動作と、射法八節の運びです。
審査では5人立ちで2本を射て、学科と合わせて判定されます。前の人の弦音で動く間合いの順番と、会・残心・弓倒しのあとまで気を抜かないこと。この2つを押さえておくと、基準の項目の多くに手が届くと思います。
射の型も体配の考え方も、学科の答えも、もとになるのは『弓道教本 第一巻』です。
