「手の内は握りしめないで」「天文筋を当てて」と言われても、手のどこを弓のどこに当てればいいのか、ピンとこない。そんな人も多いのではないでしょうか。
弓道を始めてみると、手の角度がほんの少しずれただけで、的に届くころには大きなずれになっていることに驚きます。左手の握り方は、その「少し」の感覚がいちばん出やすいところだと思います。
わたし自身、まだ手の内を教わっている途中の身です(執筆時)。なのでこの記事では、全日本弓道連盟(全弓連)の解説、中学校向けの指導書、スポーツ庁の動画などを読み比べて、共通している基本をまとめてみました。もちろん習っている先生に見てもらい、先生のご指導に従うのが確実です。この記事は、知識や習ったことの整理に使っていただくのが良いかなと思います。
先に要点を書くと、手の内は弓構えのときに、左手で弓の握りを整える形です。指は握り込まず、虎口(親指と人差し指のあいだ)・天文筋(手のひらの線)・三指(中指・薬指・小指)の順に弓に当てていきます。整えたら、引いて離すまで崩さない。これが基本です。
- 手の内とは何か、弓手(ゆんで)との関係
- 手の内の基本の作り方(虎口・天文筋・三指の当て方)
- よくある崩れ方と、見直すところ
- 先生や流派によって教え方が違うところ
弓道の手の内とは|弓手(左手)で弓の握りを整える形
弓道では、弓を持つ左手を弓手(ゆんで)、弦を引く右手を馬手(めて)と呼びます。馬手は「妻手」と書くこともあります。弓手は弓を的の方へ押していく手なので、「押し手」とも言われます。
手の内は、その弓手で弓の握りをどう持つかを整えることです。射法八節の3つ目「弓構え(ゆがまえ)」は、取懸け(右手を弦に掛ける)・手の内・物見(的を見る)の3つでできていて、手の内はその2番目にあたります。射法八節の流れは射法八節とはにまとめています。
このあと出てくる「外竹(とだけ)」「内竹(うちだけ)」「矢摺籐(やずりどう)」は弓の部位の名前です。外竹は弓の外側(的の側)、内竹は内側(弦の側)の面のことです。

弓の各部の名前は和弓とはでも整理しています。
手の内で何が変わるのか
手の内は、弓の力を受け止めて、矢をまっすぐ飛ばすための土台です。スポーツ庁の動画では、手の内を整えたうえで、矢に力を正しく伝えて方向を安定させるのに大事なのが「角見(つのみ)の働き」だと説明されています。
和弓は矢を弓の右側につがえるので、そのまま離すと、弦は弓の中央に戻ろうとします。そこで弓を反時計回りに押しねじることで、矢が弓をよけて、ねらったところへまっすぐ飛ぶ。これが角見の働きです。
離れのあとに弓が手の中で回る「弓返り(ゆがえり)」も、手の内の話でよく出てきます。ただ、弓返りは手の内と離れがうまくいった結果として起きるもので、それ自体を狙って手首で回すものではない、という説明が多いです。弓返りのことは弓道の猿腕とは|弓返りとの関係・腕を払う原因と対策で別にまとめる予定です。
手の内に出てくる言葉
手の内の説明には、手のひらの部位の名前がたくさん出てきます。最初にここを押さえておくと、先生の言葉も入ってきやすくなります。
| 言葉 | 読み | どこのことか |
|---|---|---|
| 虎口 | ここう | 親指と人差し指のあいだの部分 |
| 天文筋 | てんもんすじ | 手のひらにある線(「天紋筋」と書くこともある) |
| 角見 | つのみ | 親指の付け根のあたり |
| 三指 | さんし | 中指・薬指・小指の3本 |
| 弓手/馬手 | ゆんで/めて | 弓を持つ左手/弦を引く右手 |
手の内の基本の作り方|虎口・天文筋・三指の順に当てる
手の内の作り方は、スポーツ庁の動画でみると細かく順を追って見ることができます。正面打起し(体の正面で構えるやり方)の場合を、動画の説明で並べると次のとおりです。中学校の指導書の書き方とも、大筋は同じでした。
- 虎口を弓に当てる:当てる場所は、弓の左側面の、矢摺籐の少し下
- 天文筋を外竹の左すみに当てる:ここが最後までずれないように
- 三指をそろえて内竹に軽く当てる:中指・薬指・小指をそろえる
- 指は握り込まない:親指から小指を軽く寄せるくらいにして、肩・ひじ・手首は楽に
指導書の手の内の説明には、このほかに手の内は弓と直角、中指と親指が離れないことも書かれています。

言葉だけで手の形をつかむのは本当に難しいので、スポーツ庁の動画を置いておきます。正面打起しと斜面打起しの両方の手の内と、角見の働きを、手元のアップで見られます。
「握りしめない」はどのくらい?
指導書には、電車のつり輪をつかむようなイメージで握るという言い方があります。わたしは、ぶら下がるほど強くはつかまないけれど、手から離れるほど緩くもない、くらいの感じなのかなと受け取っています。
三指については、スポーツ庁の動画が「そろえて軽く当てる」と説明しています。一方で、指導書の図解には「しっかり握る」という言い方もあって、資料によって強さの表し方には幅があります。どのくらいの力かは文字では伝わりにくいので、ここは実際の手を見てもらうのがいちばんだと思います。
抜刀をやっていたときも、腕の角度や向きのほんの少しの差で、結果がまるで変わりました。頭でわかっていることと、手でできることは別。手の内も、そういう種類のものなのだろうと感じています。
手の内は弓構えで作って、そのあと崩さない
手の内は弓構えで作ったら終わりではなく、打起し・引分け・会・離れのあいだ、ずっと崩さないことが大事です。指導書でも、離れの練習のところで「手の内が崩れないように」と注意しています。
引分けで弓の力がかかってくると、握る力が強くなったり、手首の向きが変わったりしやすい、という声はよく見かけます。最初に作った形を、引き終わるまで保てるかどうか。そこが手の内の難しさなんだろうと思います。引分け・会のことは弓道の会・引き分け・大三、離れのことは弓道の離れとはにまとめています。
手首は入りすぎても、入り不足でもいけない
指導書では、手首の握りが内側に入りすぎないように、また入り不足にもならないようにと注意しています。入りすぎても足りなくてもいけない、ということですね。
どこが「ちょうどいい」かは文字だけでは決めにくいので、自分の手首の角度は先生に確かめてもらうのが安心です。
手の内の練習は、ゴム弓と素引きから
中学校の指導書では、紐弓・ゴム弓・素引き(矢をつがえずに弓を引いて、離さずに戻す練習)で射法八節を通して練習する段階に、弓の握り方や角見の働きを知ることが組み込まれています。いきなり的前で手の内を作るのではなく、矢を射ない練習で形を覚えていく、という順番です。
家でできるのはゴム弓までで、素引きは弓を使うので道場で、という線引きになります。ゴム弓の使い方や家での練習の範囲は弓道の筋トレは必要?家でできるゴム弓練習と体幹メニューにまとめています。
家で形を確かめるならゴム弓
山武弓具店・楽天市場で、レビューの多い「座右弓」3,300円、ネコポスで送れる「必中弓」2,530円(2026年10月時点・送料別)。手の内の形も、引き方も、先生に見てもらった形を家でなぞる用です。
手の内のよくある失敗と見直すところ

手の内の崩れ方は、だいたい同じところに集まります。指導書の説明と、経験者の解説で共通しているものを表にしました。「こうすれば当たる」という話ではなく、崩れたときに見直す場所の目安として見てください。
| よくある崩れ方 | 見直すところ |
|---|---|
| 弓を握りしめる(べた押し) | つり輪をつかむくらいの力か。指を握り込んでいないか |
| 天文筋が外竹の左すみから外れる | 弓構えで当てた位置が、引いているあいだも動いていないか |
| 中指と親指が離れる | 中指と親指がついたままになっているか |
| 手首が入りすぎ・入り不足 | ちょうどいい角度を、先生に見てもらう |
| 弓と手が直角にならない | 手の内が弓と直角(十文字)になっているか |
崩れたときに何が起きるかまで書いてある資料は多くありませんが、握りしめると弓が手の中で回りにくくなること、天文筋が外れると弓をうまく押せず不安定になることは、複数の解説で共通して挙げられていました。
解説でよく挙がるのは、やはり握りしめてしまうことです。弓の力に負けまいとすると、自然と手に力が入ってしまう。そこをどう抜くかが、多くの人がつまずくところなのだと思います。
手の大きさ・握りの太さが合わないとき
手の内がなかなか決まらない原因として、握りの太さが手に合っていないことも挙げられます。握りの太さは、握り革の厚みや、その下の「あんこ」で変えられますが、「この太さが正解」という数字はありません。変える前に先生に相談するのが確実です。くわしくは弓道の握り革の巻き方と交換時期にまとめています。
親指の付け根や手が痛いとき
弓を押す左手は、親指の付け根のあたりに負担がかかりやすいところです。痛みが続くときは、手の内の作り方や握りの太さが合っていない可能性もあるので、無理に続けず先生に見てもらうのがいいと思います。痛みが引かない・腫れているときは、医療機関で診てもらってください。弓道で起きやすいけがのことは弓道で多い怪我と予防|弦で打つ・肩肘の痛み・事故の防ぎ方にまとめています。
手の内は先生や流派で教え方が違う
手の内を調べていて驚いたのは、言い方や教え方が本当にいろいろあることです。
まず、打起しのやり方で手の内を作る場所が違います。スポーツ庁の動画では、正面打起しは体の正面で、斜面打起しは体の斜め前で手の内を整えると説明していて、虎口の当て方も少し違って見せています。どちらで教わるかは道場によります。
また、手の内の形を表す言葉もいくつもあります。たとえば「卵中(らんちゅう)」は、卵を握るように手の中に空間を残して柔らかく持つ、という意味で使われることが多い言葉です。ほかにも「紅葉重ね(もみじがさね)」「鵜の首(うのくび)」など、流派や先生によって手の内を表すたとえがあります。
どれが正しいというより、教わっているやり方に合わせるのがいちばんです。本や記事は、先生の言葉の意味を知るために使う、くらいの付き合い方がちょうどいいのかなと思っています。
弓道の手の内のよくある質問
Q. 手の内はいつ作る?
射法八節の「弓構え」で、取懸けの次に作ります。正面打起しなら体の正面、斜面打起しなら体の斜め前で整えます。作ったあとは、離れまで崩さないようにします。
Q. 弓返りしないのは手の内が悪いから?
手の内が関係することは多いですが、弓返りは手の内と離れがうまくいった結果として起きるもの、という説明が一般的です。始めたばかりのうちは、弓返りを狙って手首で回すより、まず基本の形を作ることを優先したほうがよさそうです。
Q. 握力は必要?
手の内は強く握るものではないので、握力が強くないとできない、ということはありません。体づくりのことは弓道の筋トレは必要?にまとめています。
Q. 手が小さい・大きいと手の内は変わる?
基本の当てどころは同じですが、握りの太さが合っていないと手の内が作りにくくなります。握り革やあんこで太さを調整できます。
Q. 手の内は家で練習できる?
ゴム弓で形をなぞるところまでなら家でもできます。素引きは弓を使うので道場で行います。
まとめ|手の内は「握らずに当てる」から始まる
手の内は、弓構えで左手を弓の握りに整える形です。握りしめず、虎口・天文筋・三指の順に当てて、引き終わるまで崩さない。基本はこれだけですが、これだけのことがいちばん難しい。
教え方の違いも多いところなので、言葉の意味を知ったうえで、最後は先生に手を見てもらうのが近道だと思います。射法八節の考え方を手元で確かめたいなら、全弓連の教本が土台になります。
射法八節の全体の流れや、ほかの節のことは次の記事で整理しています。
