教室のない日に、家で何か練習できないか。筋トレをしたほうが早く上手くなるのか。弓道を始めると、一度はこう考えるのではないでしょうか。
わたしも稽古の翌日は、腕や背中、肩のまわりが張ります。以前通っていた抜刀の教室とは、張る場所がまるで違う。使っている筋肉が違うんだな、と体で感じました。
結論から書きます。始めたばかりのうちは、筋トレより形の練習が先。家での練習の中心はゴム弓で、筋トレは背中・体幹・下半身を軽く補う程度で十分だと思います。本物の弓を引く「素引き」は、家ではなく道場でやるものです。
わたしは教室に通い始めたばかりの初心者で、トレーニングを教えられる立場ではありません。ここに書くのは、公開されている資料や情報を読み比べてわかったことです。
- 弓道に筋トレは必要か(要る派・要らない派の言い分)
- 弓を引くときに使う筋肉
- 家でできる練習の順番と、ゴム弓の使い方・選び方
- 素引きを家でしないほうがいい理由と、基本の筋トレ
弓道に筋トレは必要?「要らない」と「やる」の両方の言い分
調べてみると、経験者の意見ははっきり二つに分かれていてなかなか興味深かったです。どちらも筋が通っているので、まず両方を並べてみます。
「弓は骨で引く」――要らない派の考え方
弓道ではよく「弓は腕力ではなく骨で引く」と言われます。腕の力で無理に引くと、肩が上がったり体の軸がずれたりして、かえって形が崩れる、という考え方です。
もう一つの理由は、弓の強さは体力に合わせて選ぶものだということ。中学校向けの指導書も、体力に合った強さの弓を使うこと、体力に応じた引き幅で引かせることを挙げています。弱い弓から始めて、引けるようになったら少しずつ強くしていく。弓を引くこと自体が体づくりになるので、別に筋トレをしなくてもいい、というのが要らない派の言い分です。
なお、弓の強さの選び方については弓道の弓の値段と種類にもまとめています。
それでも筋トレをする人・部活が多い理由
一方で、筋トレを取り入れている人も少なくありません。理由としてよく挙がるのは、もっと強い弓を引けるようになりたい、会(引き切った状態)で腕が震える、姿勢を長く保つための体幹がほしい、といったものです。
高校の弓道部でも、体幹トレーニングや筋トレを練習に組み込んでいる学校はよく見かけます。部活の1年の流れは弓道部とはで整理しています。
始めたばかりなら「形の練習が先、筋トレは補助」
両方を読んで、わたしは始めたばかりの段階では、足りないのは筋力より形なのだと思っています。
教室で言われたことは頭ではわかるのに、体がそのとおりに動かない。この時期が長いです。そこで筋力を足しても、崩れた形のまま力が強くなるだけかもしれません。まずは形を覚える練習を優先して、筋トレはそれを支える補助くらいに考えるのがちょうどいい気がします。
どうなのか初心者のわたしには真偽の判断がつきませんが、筋肉をいきなりつけると体のバランスが変わってしまい、微妙な機微を調整して形をつくっていくフェーズでは邪魔になるような気もします。あくまでも、弓道をしていく中で自然につく筋肉が良いのかなと。わたしの考えです。
弓道で使う筋肉|腕だけでなく胸と背中で引く
全弓連はゴム弓の練習法の中で、両腕だけで引き合うのではなく、胸の筋肉と背中の筋肉を使って体全体で引くと説明しています。腕の力こぶで引っぱるイメージとは、だいぶ違います。
弓を引く動きからすると、主に働くのは次のような部位です。
| 部位 | 主な筋肉 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 背中 | 広背筋・僧帽筋など | 引分け・会で、胸と一緒に左右へ引き合う |
| 肩まわり | 三角筋など | 打起しから会まで、腕を上げて支える |
| 腕の裏側 | 上腕三頭筋 | 押す側の腕(左腕)を的のほうへ押す |
| 前腕 | 前腕の筋肉 | 手の内(弓の握り)や、弦に掛けた右手を保つ |
| 体幹・下半身 | 腹・背中・脚 | 足踏みと胴造りで、体の土台を支える |
「肩甲骨を寄せる」という言い方もよく見かけますが、全弓連の解説で目立つのは「左右の肩を沈め」「左右均等に伸び合う」という表現です。肩甲骨だけを意識するより、肩を上げずに左右へ伸びる、と考えたほうが資料の書き方に近いと思います。
家でできる練習の順番|道具なし → ゴム弓 → 筋トレ
初心者の稽古について、徒手体操から始めて、ゴム弓、素引き、巻藁の練習などを経て、的前で引けるようになることを目標にすることが多いです。このうち家でできるのは、徒手体操とゴム弓です。

素引きと巻藁は、本物の弓を使うので道場で。教室でどんな順番で進むのかは大人から弓道を始めるにはに書いています。
家での練習と筋トレを、道具や場所で整理するとこうなります。

ゴム弓の練習|家での練習の中心
ゴム弓とは
ゴム弓は、握りの付いた棒にゴムを張った練習用具です。ゴムが弦の代わりになるので、矢をつがえなくても、射法八節の流れや形を練習できます。狭い場所でも使えるのが何よりの利点です。
初心者のための道具と思われがちですが、全弓連は上級者も使う基本の「き」の練習と紹介しています。フォームの確認や筋力の強化にも使うとありますが、中心はあくまで形の確認です。
ゴム弓練習の流れ
やることは、射法八節をゴム弓でなぞることです。各節の意味は射法八節とはにまとめているので、ここでは全弓連のゴム弓練習法から、家でやるときのポイントだけ拾います。
- 足踏み:両足のつま先を的の方向と一直線にして、身長の半分くらいの幅で、約60度に開く
- 胴造り・弓構え:背筋を伸ばして肩の力を抜く。ゴム弓を持つ左手首は折らない
- 打起し:両腕をしなやかに上げる。両拳はほぼ水平、肩はこわばらせない
- 引分け・会:腕だけでなく胸と背中で、左右均等に引く。ゴムが頬に付き、鼻の下から口の高さにくるのが目安
- 離れ・残心:姿勢を崩さずに自然に離し、そのまま的の方向を見て形を保つ
家でやるなら、鏡の前か、スマホで横から撮りながらがおすすめです。体の軸が的のほうへ傾いていないか、肩が上がっていないかは、自分の感覚だけではまずわかりません。
ゴム弓で気をつけること
弓具店の使用上の注意では、人に向けて引かないこと、使う前にゴムの傷みや結び目のゆるみを確かめること、ゴムを元の長さより短く結ばないこと(切れやすくなる)が挙げられています。ゴムは日光で傷みやすいので、日の当たらない室内に置いておくのがよさそうです。弾力が落ちたら替えゴムに交換します。
もう一つ大事なのは、一人で回数をこなすより、教室で形を見てもらってから家で繰り返すことだと思います。自己流の癖がついたまま何百回も引くと、直すのに時間がかかります。1日に何回やればいいかは、教わっている先生に聞いてみると良いかなと思います。
ゴム弓の種類と値段
ゴム弓にはいくつか形があります。弓具店でよく見かけるのは次の3つです。
| 種類 | 弓具店の説明 | 値段の目安 |
|---|---|---|
| 座右弓(ざゆうきゅう) | 弓に近い感覚で練習できる | 約2,600〜3,900円 |
| 新ゴム弓 | 入門者向けの定番 | 約2,400〜3,900円 |
| 必中弓(ひっちゅうゆみ) | 握りの側面の穴にゴムを通し、和弓の「入木(いりき)」の感覚をつかみやすくした | 約2,500〜2,800円 |
どれも3,000円前後で、弓道の道具の中ではいちばん手に取りやすい部類です。ただ、買う前に、教室や部活で使っているゴム弓の形を確かめておくのがいいと思います。先生が同じ形で見てくれるほうが、直してもらいやすいからです。替えゴムは数百円から1,700円ほどで、店によって差があります。
ほかの道具の値段や買う順番は弓道の道具一覧で整理しています。
家で練習するならゴム弓から
山武弓具店の座右弓は3,300円(送料660円)、必中弓は2,530円(送料330円)です(2026年10月時点・楽天市場)。教室や部活で使っている形があれば、それに合わせて選んでください。
道具がなくてもできること|徒手・紐・鏡
ゴム弓がなくても、家でできることはあります。
一つは、何も持たずに射法八節の順番と形を体でなぞる練習です(徒手練習と呼ぶ部活もあります)。足踏みの幅と角度、胴造りの姿勢は、道具がなくても鏡の前で確かめられます。
中学校向けの指導書では、ゴム弓の前に紐(ひも)を使って射法八節を覚える段階が置かれています。紐を弦に見立てて、引く動きの順番を覚えるやり方です。家にある、少し伸びる紐でも、動きの順番を確かめるには十分だと思います。
指導書は、準備運動も「弓道で使う筋肉を意識して」行うように書いています。練習の前に、肩まわりや手首、背中を軽く動かしておくだけでも違うはずです。
正直、徒手もゴム弓も地味です。教室でも、素引きや巻藁の時期は矢を的に向けて射てないので、地味に感じていました。でも、形が体に入っていくのは、たぶんこの地味な時間なんだと思います。
素引きは家でやらない|道場でやる理由
素引き(すびき)は、本物の弓を、矢をつがえずに引く練習です。全弓連の解説でも、ゴム弓の次の段階として、実際に弓を持って行う練習と位置づけられています。
これは家ではやらないほうがいい練習だと思います。理由は4つあります。
- 弓が要る:始めたばかりのうちは、弓は教室や部活のものを借りていることがほとんどです
- 広さが足りない:和弓は2mを超える長さがあり、打起しで頭の上まで上げると、普通の部屋では天井や照明に当たりかねません
- 離すと危ない:指導書は、素引きでは弦を離さずに戻すよう注意しています。矢をつがえずに離すと、弦が切れたり、顔や腕を打ったりするからです
- 弓の力に負けて形が崩れやすい:はじめは弓を持つと余計な力が入りやすく、見てもらえる場所のほうが安心です
巻藁(まきわら)も、始めたばかりのうちは道場で先生のいるところでやる練習です。弓具店では自宅用の小型の巻藁や巻藁ネットも売られていて、家で巻藁を引いている人もいます。ただ、自分の弓・矢・ゆがけがそろっていることが前提で、矢が外れたときの安全や置き場所も考えなければなりません。巻藁については弓道の巻藁とは|種類・値段と自宅に置く前に知ることで整理しています。
家でできる筋トレ|背中・体幹・下半身・腕

ここからは、補助としての筋トレを参考までに。どれも器具の要らない、一般的な自分の体重を使うトレーニングです。弓道専用の特別なメニューがあるわけではありません。
回数は、無理なくできる回数から始めれば十分です。大人の筋力トレーニングの目安は週2〜3日で、毎日やる必要はありません。痛みが出たらやめて、肩や肘、手首の痛みが続くときは医療機関に相談してください。弓道で起きやすいケガについては弓道で多い怪我と予防|弦で打つ・肩肘の痛み・事故の防ぎ方にまとめています。
背中:うつ伏せで上体を起こす
うつ伏せになって、反動をつけずにゆっくり上体を起こすトレーニングです(バックエクステンション)。背骨に沿った背中の筋肉を使うので、胴造りで上体をまっすぐ保つ土台になります。腰を反らせすぎると痛めやすいので、高く上げようとしないことです。
体幹:プランク
肘とつま先で体を支え、頭からかかとまでを一直線に保ちます。弓道は、同じ姿勢を崩さずに保つ時間が長い武道です。体の軸をまっすぐ保つ力は、胴造りから残心まで通して使います。
下半身:スクワット
足踏みと胴造りは、射の土台です。ゆっくり腰を落として戻すスクワットで、脚とお尻を鍛えます。膝とつま先の向きをそろえ、反動をつけずにゆっくり行います。
腕:腕立て伏せ
腕立て伏せでおもに働くのは、胸(大胸筋)と腕の裏側(上腕三頭筋)です。上腕三頭筋は、引分けから会で肘を張るときに使う筋肉なので、弓道とのつながりがわかりやすいトレーニングです。きつければ膝をついてかまいません。
弓道の筋トレ・自宅練習でよくある質問
Q. 女子でも筋トレは必要?
性別で決まるというより、いま引いている弓の強さと、形ができているかで決まると思います。弓の強さは体力に合わせて選ぶものなので、引くのがつらいときは、まず先生に弓の強さを相談してみてください。そのうえで、体幹や背中を軽く補うのは男女とも同じです。
Q. ゴム弓は何キロ?
ゴム弓の強さは、ゴムの長さで多少調整できますが、短くしすぎると切れやすくなります。ただ、ゴム弓は形を覚えるための道具で、本物の弓の重さを感じる道具ではありません。強さより、正しい形で引けているかを見るのが先です。
Q. ダンベルやジムは必要?
始めたばかりのうちは、なくて大丈夫です。もっと強い弓を引きたい段階になって、筋力が足りないと感じたら、そのときに先生と相談しながら考えれば十分だと思います。
Q. 握力は必要?
弓を握る左手(手の内)は、強く握り込むものではないと説明されることが多いです。握力で弓を握りしめると、かえって手の内の形が崩れます。手の内については弓道の手の内|基本の作り方と図解・よくある失敗で整理しています。
Q. 部活の筋トレメニューとどちらを優先する?
部活に入っているなら、部のメニューに合わせるのがいちばんです。顧問の先生や先輩は、その部の練習の流れを考えて組んでいます。家でやるのは、部で教わったゴム弓の形のおさらい、くらいがちょうどいいと思います。
まとめ|家ではゴム弓で形を、筋トレは軽く、弓は道場で
- 始めたばかりなら、筋トレより形の練習が先。弓の強さは体力に合わせて選ぶ
- 家での練習の中心はゴム弓。教室で形を見てもらってから、鏡の前で繰り返す
- 素引きと巻藁は道場で。筋トレは背中・体幹・下半身を週2〜3日、軽く
形を覚える練習は地味で、すぐに結果が見えるものではありません。それでも、ある日ふっとできるようになって、その後は同じように再現できる。そういう瞬間を目指して、家での時間も積み重ねていけたらと思います。
家で練習するならゴム弓から
弓道の道具の中でいちばん手に取りやすい練習用具です。座右弓・必中弓とも3,000円前後(2026年10月時点・楽天市場・送料別)。買う前に、教室や部活で使っている形を確かめておくと安心です。
ゴム弓と素引きの練習法は、全弓連の「上達への道。」ゴム弓練習法と素引き練習に写真つきで載っています。射法八節の流れをおさらいしたい人は射法八節とはもどうぞ。
