「弓道って、怪我はしないの?」始める前にそう気になる人もいれば、始めてから腕に青あざができて「これ、よくあること?」と思う人もいるのではないでしょうか。
弓道は相手とぶつかる武道ではないので、大きな怪我は多くありません。起きやすいのは「弦で腕や頬を打つ」「弓を持つ左手の親指まわりを傷める」「肩・肘・手首の痛み」の3つです。そして、矢が人に当たるような重大な事故は、道場の決まりを守ることで必ず防ぐものです。
わたしも稽古の翌日は、腕や背中、肩まわりに張りが出ます。特に初めは使う筋肉がふだんと違うので、これはある意味あたりまえ。この記事で整理するのは「筋肉痛」の話ではなく「怪我・事故」の方です。
この記事は、全日本弓道連盟(全弓連)の初心者向けの案内、全国高等学校体育連盟(高体連)弓道専門部の危険防止の文書、中学校の授業向けの指導書(日本武道館)などを読み比べてまとめました。体のことは、医療機関の判断がいちばん確かです。どんな場面で怪我が起きやすいかと、稽古の中でできる予防の整理に使っていただければと思います。
- 弓道で起きやすい怪我の全体像
- 弦で腕・頬・胸を打つのはなぜか、どう防ぐか
- 親指・肘・肩・手首が痛むときに見直すところ
- 矢の事故を防ぐために、道場で守られている4つのこと
- 痛いとき、先生と医療機関のどちらに相談するか(参考表)
弓道で多い怪我|まず全体をつかむ
弓道の怪我は、ぶつかったり転んだりして起きるものではありません。同じ動作をくり返すことと、弓・矢という道具の扱いから起きると言えます。分けると、体のトラブルが3つと、矢にかかわる事故です。

全弓連の案内でも、弓道の事故は少なく、起きるとすればほとんどが矢にかかわるもの、とされています。逆にいえば、矢の扱いの決まりさえ守れば、大きな事故はかなり防げるということです。
弦で腕・頬・胸を打つ|いちばんよく聞く怪我
打ちやすいのは、左腕・頬や耳・胸
矢を放ったあと、弦は勢いよく前へ戻ります。このとき弦が体に当たると、いわゆる「弦で打つ」状態になります。打ちやすいのは、弓を持つ左腕の内側(前腕)、右の頬や耳、そして女性は胸です。左腕は内出血して青あざになることもあります。
学校向けの指導書には、矢を番えずに引いて離すと「弦切れや顔、左腕を打つ」ので離させない、という安全の注意があります。矢を番えない素引きで離さないのは、弓を傷めないためだけでなく、自分の体を打たないためでもあるわけです。
原因として言われること
原因としてよく挙げられるのは、射形がまだ固まっていないことです。離れの形や手の内、顔の向き(物見)など、見直すところは人によって違うので、続くようなら先生に見てもらうのがいちばんの近道です。
離れの崩れ方の名前や見直すところは弓道の離れとはに、左手の形は弓道の手の内にまとめています。
防ぐためにできること
いちばんは、先生に射形を見てもらうことです。そのうえで、服装や道具で防げることもあります。
- 上衣の胸まわり:全弓連の案内では、左胸にポケットがある・前にボタンがある上着は、離れで弦に払われるおそれがあるので向かない、とされています
- 女性は胸当て:弦が胸に当たるのを防ぐ道具です。全弓連の案内でも、女子は胸当てを着けるとされています
- 髪はまとめる:指導書でも、巻藁で矢を離す練習の注意として「ゆるみばなれ、手や髪の毛を弦で打たないように」と書かれています。長い髪はまとめておきます
胸当ては600円〜1,500円ほどで、最初は小さめの合皮かメッシュで十分なようです。部活や教室で色・形が決まっていることもあるので、先に確かめてから選ぶと安心です。選び方や向き・紐の結び方は弓道の胸当ての選び方と付け方にまとめています。
小さめの胸当て(合皮・メッシュ)
翠山弓具店の女性用 胸あて 合皮レザー Sサイズ(綿紐タイプ)990円/山武弓具店の胸当て メッシュ 小サイズ(黒・白)1,030円。どちらも送料別(2026年11月時点・楽天市場)。部活・教室の決まりを先に確かめてから選んでください。
親指・肘・肩・手首の痛み
弦で打つのが「一瞬の怪我」なら、こちらは同じ動作のくり返しで少しずつ出てくる痛みです。場所ごとに、よく言われる原因と見直すところを調べてみました。
弓を持つ左手の親指まわり
弓を持つ左手の親指は、すぐ上を矢が通るところです。全弓連の案内には、握りに対して矢を番える位置が低いと、左手の親指を負傷する原因になると書かれています。指導書でも同じ注意が出てきます。矢の羽根で親指が擦れて傷になる、という声も見かけます。
矢を番える位置の目安になるのが、弦に作る中仕掛けです。番える位置や手の内の作り方は先生に見てもらいながら直していくところなので、痛むときは早めに伝えておくのがいいと思います。中仕掛けは弓道の中仕掛けの作り方に、手の内は弓道の手の内にまとめています。
肘が痛い
肘の痛みでよく挙げられるのは、自分の力に合わない弓を無理な力で引いていることと、射形の崩れです。弓を持つ左腕の肘のあたりを弦が払う、という悩みもあり、これは腕の形とかかわる話として弓道の猿腕とはで扱います。
肩・肩甲骨まわりが痛い
弓を引く動作は、肩や肩甲骨まわりを大きく使います。冒頭に書いたように、稽古の翌日に張りが出るのは珍しくありません。気をつけたいのは、稽古のあとも痛みが残る、日がたっても引かないときです。そのまま引き続けず、先生に伝えて休むのがいいと思います。
「肩甲骨を使って引く」という射技の話は、弓道の会・引き分け・大三とはにまとめています。
弓が強すぎないか
肘・肩の痛みのどちらにもかかわるのが、弓の強さです。全弓連の案内では、自分に合う強さの目安を示したうえで、初心のうちはさらに弱めを目安にするとされています。ほかに接骨院の解説でも、無理のない弓力から始めて少しずつ上げていくことがすすめられていました。
教室や部活では弓を借りることが多いので、強さは先生や顧問が見てくれます。自分の判断で強い弓に替えないこと、年齢にかかわらず弱めから始めることが大切です。弓の強さの考え方は弓道の弓の値段と種類に、年代ごとの始め方は弓道は何歳から始められる?にまとめています。
手首・ゆがけを着ける右手
手首の痛みは、弓を握る・弦を引く動作のくり返しや手首の角度から出ることがあり、弓を持つ左手(弓手)に多いとも言われます。手の内の形とあわせて先生に見てもらうとよさそうです。
弦を引く右手には、ゆがけ(弽・かけ)を着けます。わたしも、ゆがけを外したあとは手がじんわり疲れているのを感じます。ゆがけが手に合っているか、着け方はどうかも、気になるときは先生に聞いてみてください。着け方はゆがけ(かけ)の付け方・紐の結び方と手入れに、選び方はゆがけ(弽)とはにまとめています。
力みすぎて腕が震える、会が保てないといった悩みは、弓道の早気とはや弓道の会・引き分け・大三とはも参考になると思います。
矢の事故を防ぐ|道場で守られている4つのこと

矢は、人を傷つけられる道具です。高体連の弓道専門部は、過去の部活動中の事故をきっかけに、「弓道における危険防止について」という文書をあらためて確認するよう学校に呼びかけています。高体連の文書には、弓道はけがの少ない競技だが、「まさか」という油断から事故が起こるという一文もあります。
わたしが以前通っていた抜刀の教室も、真剣という刃物を扱う武道でした。扱いを誤ればけがをするのは弓道と同じです。だから最初に習った作法と決まりのとおりに、粛々と扱っていました。道場に入った瞬間から緊張感をもってやるというのは、どちらにも共通していると思います。
① 人のいる方に矢を向けない
全弓連の案内では、人のいる方に向かって矢を番えたり、打起しをしたりすることは絶対禁止とされています。当然のことながら先生からご指導がありますが、初心者のうちは、先生の指示があるまで自分から矢を番えない、勝手に指示のない道具は使わないと考えておくと間違いがありません。
② 矢取りは、射場の安全を確かめてから
的に刺さった矢を取りに行く「矢取り」は、引いている人がいないかを確かめてから安土(的のある土の壁)に入ります。高体連の文書では、射場と的の確認を怠って安土に入るのは危険そのもので、絶対に間違いがあってはいけない、とされています。矢取りの合図のしかたは道場ごとに決まっているので、それに従います。
③ 巻藁は、前を通らない・距離を守る
巻藁は目の前の近い的ですが、高体連の文書では、巻藁で引いている人の前を通ることは絶対禁止とされています。巻藁の中が固くなっていると矢が跳ね返ることがある、という注意もあります。全弓連の案内では、巻藁との距離は弓一杖(約2m)を守り、矢を抜くときも周りの人に触れないように注意するとされています。くわしくは弓道の巻藁とはにまとめています。
④ 矢を引き込みすぎない・傷んだ矢と弓は使わない
高体連の文書では、矢尻が弓の外側を越えて内側まで引き込まれると、矢が折れて飛び、自分や周りの人がけがをすることがあるとされています。自分の体に合った長さ(矢束)の矢を使うのが前提です。
道具の傷みにも気を配ります。全弓連の案内では、矢束より短い矢、羽根のない矢、箆(の)が割れた・折れた矢、矢尻が取れた矢は、的前で絶対に使ってはいけない、とされています。高体連の文書でも、箆がへこんで中に亀裂がある矢は折れるおそれがあるので使わない、切れた矢摺籐は早めに直す、とあります。弦は交換していても切れることはあるので、予備の弦を用意しておくのが基本です。矢は弓道の矢の種類と値段に、弦は弓道の弦の種類とおすすめにまとめています。
痛い・怪我をしたとき|誰に相談するか参考表
痛みや違和感があるときに、どこを見直して誰に相談するか。目安として表にまとめました。あくまでも目安で、迷ったら先生に、体のことは医療機関に、が基本です。
| こんなとき | まず見直すこと | 誰に相談するか |
|---|---|---|
| 左腕・頬・胸を弦で打つ | 離れ・手の内・物見、服装(胸当て) | 先生 |
| 左手の親指が痛む・擦れる | 矢を番える位置(中仕掛け)、手の内 | 先生 |
| 肘・肩が稽古のあとも痛む | 弓の強さ、引き方。痛む間は引かない | 先生。続くなら医療機関 |
| 腫れる・しびれる・動かすと強く痛む | 引かずに休む | 医療機関(整形外科) |
| 矢が人の方へ飛んだ・当たりそうになった | すぐに引くのをやめる | 先生・顧問 |
痛みがある間は引かない・先生に伝える
痛いのに無理をして引くと、かばった形がくせになったり、痛みが長引いたりしかねません。痛みがある間は引かずに、先生(部活なら顧問)に伝える。それだけで、射形の見直しや弓の強さの調整など、次にやることを一緒に考えてもらえます。
続く・腫れる・しびれるなら医療機関へ
痛みが続く、腫れている、しびれがある、動かすと強く痛む。こういうときは、弓道の先生ではなく医療機関(整形外科など)で診てもらうのが確実です。弓道を続けたいことも一緒に伝えておくと、いつごろから稽古に戻れるかも相談しやすいと思います。
弓道の怪我のよくある質問
Q. 子どもに弓道をさせても危なくないですか?
弓道は、指導者のもとで安全の決まりを守って行うものです。指導書でも、はじめの段階で「安全が全てに優先する」ことを理解しているかを確かめるようになっています。気になるなら、見学のときに安全の決まりや指導の体制を聞いてみると安心です。年代ごとの入口は弓道は何歳から始められる?、部活については弓道部とはにまとめています。
Q. 弦で打った腕のあざは、放っておいていいですか?
弦で打って腕にあざができる、という話は弓道ではよく聞きます。ただ、痛みが強い・腫れがひどい・なかなか引かないときは医療機関で診てもらってください。くり返し打つなら射形の問題のことが多いので、先生に見てもらうのが近道です。
Q. 年齢が上がってから始めても、体は大丈夫ですか?
弓道は、大人になってから始める人もいる武道です。弱い弓から始めて、少しずつ体を慣らしていくのが基本です。無理をしない、痛いときは先生に伝える、を守るのがいちばんです。家でできる体づくりは弓道の筋トレは必要?にまとめています。
Q. 準備運動はしたほうがいいですか?
指導書の授業の流れにも、はじめに準備運動(ストレッチ)が入っています。教室や部活でも、稽古の前に体をほぐすことが多いので、中身は指導に合わせるのがいいと思います。
まとめ
弓道で起きやすい怪我は、弦で打つ、左手の親指まわりを傷める、肩・肘・手首の痛みの3つ。どれも射形や弓の強さとかかわるので、続くときはひとりで悩まず先生に見てもらうのがいちばんです。痛みが続く・腫れる・しびれるなら、医療機関へ。
そして矢の事故は、人のいる方に向けない、矢取りの前に確かめる、巻藁の前を通らない、傷んだ道具を使わない、の決まりで防ぐものです。道場に入ったら、緊張感をもって作法どおりに。これから始める人は、大人から弓道を始めるにはもあわせてどうぞ。
